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私が影響を受けたドキュメンタリー映画について
※この記事はQuoraで掲載されたものを加筆・修正したものです。
私が一番影響をドキュメンタリー映画は「ゆきゆきて、神軍」という日本映画です。
ご存じない方のために少しご説明いたしますと、この映画は監督原一男が手がけた1987年公開の作品で、神軍平等兵・奥崎謙三の姿を描いたドキュメンタリーです。奥崎謙三は昭和天皇に向けてパチンコ玉を打ったことで逮捕された過去がある人物。そんな彼が、かつて戦時中に自分が所属していた部隊で部下射殺事件があったことを知り、その真相究明に乗り出します。なにせ主人公の奥崎という人がもの凄い人物で、途中から原監督に演出の指図までするようになるのは見ていてもハラハラします。その熱量が凄まじく、画面からグイグイ伝わってきました。
私がこの映画を見たのは多感な年頃の18歳の時でしたので、大変影響を受けてしまいました。30年以上経った今でも、劇場に足を運んだあの頃が思い出されます。権力などに対して物怖じせずにグイグイ先に進む奥崎の姿は見ていて時にハラハラし、時に痛快でもあります。編集も素晴らしく、テンポや構成次第で作品は大きく変わるのだと思い知らされました。
今とは違い、当時は16ミリフィルムで撮影されています。デジタルとフィルムの一番の違いは予算です。デジタルは安く、フィルムは高いのです。ですからデジタルなら何時間でもじゃんじゃんカメラを回せますが、フィルムはそうはいきません。1リール100フィート(約6,000円)で大体3分しか回せませんから、シャッターを切るのにかなりの勇気が必要です。しかもフィルムを装填するのも一苦労です。フィルムが光に当たらないよう暗い場所か、黒布をカメラに被せて手探りでフィルムを装填しなくてはなりません。撮影後は現像代がまた必要となります。そんなわけで、当時のドキュメンタリー映画は金銭的にも常に決断を迫られる「戦場」のようであったと想像できます。そんな中で制作された「ゆきゆきて、神軍」。小さなプロダクションが企画制作するするので当然予算は潤沢ではなく、限られたフィルムで撮影をしています。しかも撮影途中には、インドネシアで撮影したフィルム50巻が没収されるという事態が発生。そんな中での映画製作だったのです。
映画はその時その人の心持ちや時代によって感じ方に左右されますので、万人にオススメできる映画とは申し上げられませんが、少なくとも私にとっては人生のベストワン・ドキュメンタリー映画です。アメリカのドキュメンタリー作家であるマイケル・ムーア監督も「生涯観た映画の中でも最高のドキュメンタリーだ」と語っているそうです。
「ゆきゆきて、神軍」
監督 原一男 製作 小林佐智子
出演者 奥崎謙三、奥崎シズミ
撮影 原一男
編集 鍋島惇
公開 1987年8月1日
上映時間 122分
製作国 日本
言語 日本語